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便秘

便秘症は、排便回数の減少、硬便、排便困難、残便感などの症状を特徴とする状態です。便秘症の定義は人によって異なりますが、一般的には週に3回未満の排便回数や排便の困難さを感じる状態を指します。便秘症は多くの人にとって日常的な問題であり、特に高齢者や女性に多く見られます。

便秘症の発生機序

便秘症の発生機序は複雑であり、複数の要因が関与しています。以下に主要な発生要因を挙げます。

1. 食事と生活習慣

  • 食物繊維の不足: 食事における食物繊維の摂取量が不足すると、便の体積が減少し、便秘を引き起こす可能性があります。
  • 水分摂取不足: 十分な水分を摂取しないと、便が硬くなり排便が困難になります。
  • 運動不足: 運動不足は腸の蠕動運動を低下させ、便秘の原因となります。

2. 腸の機能異常

  • 腸の蠕動運動の低下: 腸の運動が低下すると、便の移動が遅くなり、水分が吸収されすぎて便が硬くなります。
  • 排便反射の低下: 便意を感じる反射が低下すると、排便が困難になります。

3. 薬物の影響

鎮痛薬、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬などの薬物は、便秘を引き起こすことがあります。

4. 心理的要因

ストレスや不安、うつ病などの心理的要因も便秘の原因となることがあります。

5. 病理的要因

大腸がんや過敏性腸症候群(IBS)などの病気も便秘を引き起こすことがあります。

便秘症の対処法

便秘症の対処法は、原因に応じて異なりますが、一般的な対処法を以下に示します。

1. 食事療法

  • 食物繊維を多く含む食事: 野菜、果物、全粒穀物などの食物繊維を多く含む食品を積極的に摂取します。
  • 水分摂取: 十分な水分を摂取することが重要です。1日に1.5~2リットルの水を目安に摂取します。
  • バランスの取れた食事: 栄養バランスの取れた食事を心がけ、腸内環境を整えます。

2. 生活習慣の改善

  • 適度な運動: 定期的な運動は腸の蠕動運動を促進し、便秘の予防に効果的です。
  • 規則正しい生活: 規則正しい生活リズムを保つことが重要です。特に、毎日同じ時間にトイレに行く習慣をつけることが推奨されます。

3. 薬物療法

  • 緩下剤(下剤): 一時的な便秘の解消には、緩下剤が有効です。ただし、長期使用は依存性を生じる可能性があるため、医師の指導のもと使用します。
  • 漢方薬: 便秘の治療には漢方薬も効果的です。例えば、大黄甘草湯や桂枝加芍薬湯などがあります。
  • プロバイオティクス: 腸内の善玉菌を増やすことで、便秘の改善に役立つことがあります。

4. 慢性便秘症の新しい治療薬

  • リナクロチド(リンゼス錠): グアニル酸シクラーゼC受容体作動薬であり、腸の水分分泌を促進し、便秘を改善します。
  • ルビプロストン(アミティーザカプセル): 腸管粘膜上のClC-2クロライドイオンチャネルを活性化し、小腸腸管内腔へのCl-輸送により浸透圧を生じさせ腸液の分泌を促進します。慢性便秘症の治療に用いられます。

5. 心理療法

  • ストレス管理: ストレスが便秘の原因となることがあるため、ストレス管理が重要です。
  • 心理カウンセリング: 必要に応じて、心理カウンセリングを受けることも考慮します。

便秘症と大腸がんの関係

便秘症の症状が続く場合、大腸がんの初期症状である可能性もあります。特に、以下のような症状が見られる場合は注意が必要です。

  1. 便の形状の変化: 細い便やリボン状の便が続く場合、大腸がんの可能性があります。
  2. 便に血液が混じる: 血便が見られる場合、大腸がんの可能性があるため、早急に医師の診断を受ける必要があります。
  3. 体重減少: 特に理由がなく体重が減少する場合、大腸がんの可能性があります。

以上のような症状が見られた場合は、適切な検査と診断を受けることが重要です。

漢方薬による便秘治療

便秘症の治療には、以下のような漢方薬が用いられます。それぞれの漢方薬には異なる特徴と使い方があります。

大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)

成分と特徴
  • 主成分: 大黄、甘草
  • 特徴: 大黄は強力な緩下作用を持ち、便秘の即効性の改善に有効です。甘草は大黄の刺激を和らげ、胃腸への負担を軽減します。
使い方
  • 適応症: 急性便秘、慢性便秘
  • 用法: 通常、1日1回から2回、大黄甘草湯を1包をぬるま湯で服用します。食前または食間に服用するのが一般的です。
  • 注意点: 長期間の使用は避け、必要な場合は医師の指導のもとで使用します。特に、大黄の強い作用により、長期使用で依存性や腸の機能低下が生じる可能性があります。

麻子仁丸(ましにんがん)

成分と特徴
  • 主成分: 麻子仁、杏仁、枳実、大黄、厚朴、芍薬
  • 特徴: 麻子仁は油脂成分が豊富で、腸内を滑らかにし便通を促進します。杏仁や枳実は腸の蠕動運動を助け、大黄が緩下作用を発揮します。

注)枳実(キジツ):ミカン科ダイダイまたはナツミカンの未熟果実をそのまま、またはそれを半分に横切りしたもの。

使い方
  • 適応症: 慢性便秘、特に乾燥便
  • 用法: 通常、1日3回、麻子仁丸を1包をぬるま湯で服用します。食前に服用することが推奨されます。
  • 注意点: 麻子仁丸は比較的穏やかな作用を持つため、長期間の使用が可能です。ただし、個々の体質や症状に応じて適切な量を調整することが必要です。

桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)

成分と特徴
  • 主成分: 桂枝、芍薬、大棗、生姜、甘草、白朮、当帰
  • 特徴: 芍薬は腸管の緊張を和らげ、桂枝とともに腸の血流を改善します。甘草は全体のバランスを整え、消化機能を助けます。
使い方
  • 適応症: 過敏性腸症候群(IBS)による便秘、腹痛を伴う便秘
  • 用法: 通常、1日3回、桂枝加芍薬湯を1包をぬるま湯で服用します。食前に服用することが一般的です。
  • 注意点: 桂枝加芍薬湯は腹痛を伴う便秘に特に有効です。便秘だけでなく腹部の不快感を伴う場合に用いると効果的です。

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)

成分と特徴
  • 主成分: 防風、黄芩、黄連、大黄、芍薬、甘草、麻黄、石膏、白朮、桔梗、当帰、川芎、荊芥、薄荷、山梔子、連翹、滑石
  • 特徴: 複数の生薬が配合され、体内の余分な水分や老廃物を排出する効果があります。便秘改善だけでなく、肥満や浮腫の改善にも効果的です。
使い方
  • 適応症: 肥満を伴う便秘、むくみ、熱感のある便秘
  • 用法: 通常、1日2〜3回、防風通聖散を1包(2.5g)をぬるま湯で服用します。食前に服用するのが効果的です。
  • 注意点: 防風通聖散は、体力があり、熱感を伴う便秘に用いることが推奨されます。体力の低下している場合や冷え性の方には適さない場合があります。

桃核承気湯(とうかくじょうきとう)

成分と特徴
  • 主成分: 桃仁、大黄、甘草、桂皮、芒硝
  • 特徴: 桃核承気湯は、血流を改善し、便通を促進する漢方薬です。桃仁と桂皮が血行を促進し、芒硝と大黄が便を柔らかくして排便を助けます。甘草は全体のバランスを整え、胃腸への負担を軽減します。
使い方
  • 適応症: 便秘、特に瘀血(おけつ)による便秘
  • 用法: 通常、1日2回、桃核承気湯を1包をぬるま湯で服用します。食前または食間に服用することが一般的です。
  • 注意点: 桃核承気湯は血行を改善する効果があるため、月経異常や痔疾などの瘀血による症状を伴う便秘に特に有効です。ただし、妊娠中の方や出血傾向のある方には使用を避けるべきです。体質や症状に応じて、医師や薬剤師の指導のもとで使用します。

西洋薬による便秘治療

便秘症の治療には、以下のような西洋薬も広く用いられています。それぞれの便秘薬には異なる作用機序や適応症がありますので、詳細に説明します。

酸化マグネシウム(マグラックスなど)

特徴
  • 作用機序: 酸化マグネシウムは腸内で水分を引き寄せ、便を柔らかくすることで排便を促進します。浸透圧性の緩下剤です。
  • 利点: 比較的穏やかな作用で、長期使用が可能です。水分を吸収することで便の量を増やし、自然な排便を促します。
適応症

慢性便秘、特に硬便や乾燥便がある場合に適しています。高齢者や妊婦にも安全に使用できます。

センノシド(プルゼニドなど)

特徴
  • 作用機序: センノシドは大腸を刺激し、蠕動運動を促進することで便通を改善します。刺激性の緩下剤です。
  • 利点: 即効性があり、急性便秘や一時的な便秘に有効です。
適応症

急性便秘や便秘の解消が必要な短期間の使用に適しています。慢性便秘には長期使用を避けるべきです。

ヨーデル(ピコスルファートナトリウム)

特徴
  • 作用機序: ピコスルファートナトリウムは腸内細菌によって活性化され、大腸を刺激し、蠕動運動を促進します。刺激性の緩下剤です。
  • 利点: 即効性があり、腸内でのみ作用するため、胃腸への負担が少ないです。
適応症

急性便秘や一時的な便秘の解消に適しています。慢性便秘には長期使用を避けるべきです。

ラキソベロン(ピコスルファートナトリウム)

特徴
  • 作用機序: ラキソベロンは腸内で細菌により分解されて活性化し、大腸を刺激して蠕動運動を促進します。刺激性の緩下剤です。
  • 利点: 液体製剤であり、服用量の調整が容易です。
適応症

急性便秘や一時的な便秘の解消に適しています。慢性便秘には長期使用を避けるべきです。

モビコール(ポリエチレングリコール)

特徴
  • 作用機序: ポリエチレングリコールは水分を吸収し、便を柔らかくすることで排便を促進します。浸透圧性の緩下剤です。
  • 利点: 水分保持効果が高く、便の量を増やし自然な排便を促します。副作用が少なく、安全に使用できます。
適応症

慢性便秘や薬剤による便秘に適しています。長期使用が可能です。

アミティーザ(ルビプロストン)

特徴
  • 作用機序: ルビプロストンは腸のクロライドチャネルを活性化し、水分分泌を促進することで便を柔らかくし、排便を促します。
  • 利点: 慢性便秘や便秘型過敏性腸症候群(IBS-C)に対して有効です。
適応症

慢性特発性便秘、便秘型過敏性腸症候群(IBS-C)に適しています。特に他の治療が効果を示さない場合に有効です。

便秘治療の総合的アプローチ(まとめ)

便秘症の治療には、個々の患者の症状や原因に応じた総合的なアプローチが求められます。

1. 食事療法

食物繊維を多く含む食事を摂取し、水分摂取を増やすことが基本です。
バランスの取れた食事を心がけ、腸内環境を整えることが重要です。

2. 生活習慣の改善

定期的な運動は腸の蠕動運動を促進し、便秘の予防に効果的です。
規則正しい生活リズムを保ち、毎日同じ時間にトイレに行く習慣をつけることが推奨されます。

3. 薬物療法

便秘の原因や症状に応じて、適切な便秘薬を選択することが重要です。
漢方薬や西洋薬の使用を検討し、医師の指導のもとで適切に使用します。

4. 心理療法

ストレスが便秘の原因となることがあるため、ストレス管理が重要です。
必要に応じて、心理カウンセリングを受けることも考慮します。

5. 定期的な医療チェック

便秘症の症状が続く場合、大腸がんなどの重大な疾患が原因である可能性も考慮し、定期的な医療チェックが重要です。
特に、便の形状の変化や血便、体重減少などの症状が見られる場合は、早めに医療機関を受診し、適切な検査と診断を受けることが重要です。


便秘症の治療には多角的なアプローチが必要です。食事や生活習慣の改善、適切な薬物療法、心理的なサポートなどを組み合わせて、総合的に便秘症の管理と予防に努めることが求められます。患者一人ひとりの状況に応じた治療計画を立て、健康的な生活を送ることを支援致します。

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